コラム「ここを開けないでください」その2

コラム2. ギターの管理について

ご自分のアコギは大切な相棒です。 きちんと管理していけば、一生どころか子供・孫の代までも使っていけます。 ギターを練習すると言うことは使ってあげること、そうしてあげることがアコギにとって嬉しいはずです。 そうするために 末永く愛用していくために、愛情を持って管理してあげたいですね。

ギターを使い終えたら、弦を緩めて管理してください。
弦を緩めないままにしておくと、次第にネックが反ってしまい、弾き辛くなります。 又、音質も弦とボディーの間隔が離れていくことで低下します。 更には、ネックが大きく変形してしまうと調整しきれなくなりギターは寿命を迎えてしまいます。

いつも綺麗に使ってあげる事も大切です。
練習を終えたらギタークロスで埃と手の油分と唾の飛沫跡を拭き取ってあげてください。

楽器店では商業製品としてギター用のローションやスプレーが売られていますが、長期的にみれば化学薬剤やオイル成分をギターに塗り込んでいくことは望ましいとは言えません。 基本的にはギター用のクロスで丁寧に拭いてあげれば十分です。 落ちにくい唾の跡やヒジの油分には息を吹きかけて雲っているうちに拭けば綺麗に落ちます。

しばらく清掃を怠って汚れのひどい場合や、タバコのヤニで輝きを失ってしまった場合は、柔らかいハンドタオル等に霧吹きで水を掛けて湿らせてから拭けば落ちます。 霧吹きが無い場合は、水道水で布の一部だけ濡らして、乾いた部分と合わせてよく揉みながら全体的にしっとりした程度に湿らせます。 仕上げにギタークロスで磨けば輝きを取り戻します。

アコギをギターケースにしまう際には、指板のカビ発生予防として、ネックごとギタークロスで包むか、ギタークロスを縦長に畳んで指板上に弦ごとかぶせるように敷いてあげます。

 

必見! 弦の緩め方

①1・3・4番弦は=糸巻を巻いたり緩めたりの繰り返しによって金属疲労が起こり切れ易いため緩めずにおきます。
②2番弦は=糸巻を180度×6回分緩めます。
③5・6番弦は=糸巻180度×5回分緩めます。
ここまで緩めると弦はデロンデロンに緩んでいます。 切れ易い弦を緩めない分、丈夫で切れ難い2・5・6番弦は多めに緩めます。
次回にチューニングする際には、緩めた弦を緩めた分だけ巻いてから電子チューナーで微調整してください。

僭越ながら、私がご提案しております弦の緩め方を是非とも実践して頂ければ幸いです。
この緩め方は、16年程前に当教室在籍の約30名の生徒さんにご協力を頂きながら、約1年間を掛けて研究し見つけ出しております。 それ以来 ご入会頂いた全ての生徒さんに統一した管理方法として指導し、今日現在まで楽器の変形に至った個体はひとつもありません。

参考:「前述の研究について」
はじめは糸巻をどの程度緩めれば良いかを調べました。 6本の各弦を糸巻で180度×3回ずつ緩めていけばネックの変形は起きないことが解りました。 ※2回ずつでは緩やかに変形する個体がありました。


しばらくは「3回ずつ緩める」として追跡調査をしていくと、全ての個体でネックの変形は見られないものの、1ヵ月~2ヵ月の範囲で「3番弦が切れる」事例が続いたため その事について研究していきました。
新品の弦を張り、毎日チューニングして弾いては緩めを繰り返していったところ、1ヵ月程で3番弦が切れてしまうことが解りました。


その後の研究で、アコギの弦には「切れ易い弦」と「切れ難い弦」があることが判明しました。
切れ易い弦は1・3・4番弦で、切れ難い弦は2・5・6番弦でした。
切れ易い順は=最も切れ易いのは3番弦で、次いで1番弦・4番弦の順に切れ易いです。
切れ難い順は=2番弦・6番弦・5番弦の順で、細いのに一番切れずに最後まで頑張ったのが2番弦でした。

上記の結果を得て「切れ易い1・3・4番弦は緩めずに調弦の際に微調整だけにしよう」「切れ難い2・5・6番弦は十分に緩めて、緩めない弦の分を補ってあげよう」、更に「1・3番弦を緩めないため、一番丈夫である2番弦は半回転分多めに緩めて、ギターのヘッド部に掛かるテンションの左右バランスを取ろう」との結論まで至ったのです。
その後の追跡調査で、この方法であれば「弦が錆びて交換する時期まで6本の弦の寿命は持ち」、また「ネックの変形も起こらない」事も証明されました。


学術的あるいは商業目的のデータ研究ではなく、あくまでも当教室の生徒さんのために行った調査研究であるため、公式な論文などは何も作っておりませんが、おかげで生徒さんのギターのトラブルは皆無となりましたし、この「弦の緩め方」を当教室の生徒さんだけではなく、大勢のアコギを愛する皆さんに共有して頂きたくて公開しております。



「ご注意ください」
ここからは私の文章力が低いために理路整然とお伝えできず、確実に睡魔が襲ってくる「睡眠剤」がわりとなっております。
あしからず。


「すまぬ、もの申さずには居られませんのですわ」

はばかりながら言わせて頂きます。
楽器店で「新品として飾られているアコースティックギターのネックが既に変形している」事があり、恐らく弦は緩めてくれてはいるものの 3番弦や1番弦が時々切れてしまう事があるために少しずつ、言い直せば「少しだけ・ちょっとだけペグを緩めて管理されているのかな」と思ってしまった事が幾度かありました。
楽器店ではスタッフの全員がアコギに精通しているはずもなく、致し方ないと言ってしまえば済むことかもしれませんが、アコギを心から愛好する者からすれば「なんで~」とも言いたくなってしまいます。
もしも うっかり販売のプロの方が「このコラムを読まれていましたら、騙されたと思って一度この方法で管理して頂ければ幸いです。」 私の研究した方法ならば、弦が切れてしまう事はありませんし、ネックやボディーの変形も起きません。

私はギター教室を営むことで、多くの個体に触れてきました。 はじめて習うギターに期待を膨らませてご入会してくる生徒さんが、「お父さんが以前使っていたギターなんですけど・・・」と持ってくる、あるいは「インターネットで中古だけどカッコよくって買っちゃいました・・・」と嬉しそうに見せられて、既に調整不可能なほどネックやボディーの変形した個体を何本も見てきました。
その都度、「弦を緩めてあったら まだ使えたのに」「当時はそんな事すら誰も知らなかったしな」「まだ10数年前のモデルなのに、管理さえしっかりしてくれていれば」・・・
どうしてあげることも出来ない歯がゆさ、そしてアコギさんに対しても何ともやりきれない思いをしたことが幾度もあります。
だからこそ、声を大にして伝えたいのです。
「緩めなくても当面は大丈夫な個体があることは確かです」でも、愛器で実験はしないでください。
保険を掛けるつもりでも何でもいいから、弾かない時には弦を緩めてあげてください。



形あるものはいつかは壊れるけれど

人間もアコギだってそうです。 いつかは壊れて劣化して、砕けて形を保てなくなり微生物に食べられて分解され、新しい命に変わる。
でも、大切に使っていけばアコギは人間の人生の長さくらいは十分に使えると私は思っています。
思っていますと言うのは、自分自身が体験していないから解らない。

「アコギは所詮30年くらいの寿命だし、消耗品なんだから・・・」そう思っている人には私の話は響いてはくれないかもしれません。
そもそもギターはそうなのかも知れない。
ですが、「一生ものの1本」と思って高級ギターを購入する人は大勢いるはずです。
だったら、少なくとも自分がお爺ちゃん・お婆ちゃんになるまで ずっと良い状態をキープしながら愛用していきたいはず。
四季のある日本で、気温と湿度が変わるこの国でずっとアコギを相棒として大切に付き合っていきたいのなら、どう管理すればいいかを考えてほしいです。
自分は「緩めない派でいいや」と決めつけないで、騙されたと思って私がご提案している方法を試して頂ければ幸いです。 10年後の愛器の状態は各段に違っているはずです。

ネット上で「緩めなくてもいいよー」って言ってる人だって、絶対にアコギが好きなはず。
だから、私の意見は今は解ってもらえなくとも、大勢の人に影響を与えてしまうネットでは、責任を持てることを伝えてほしいです。

アコギのメーカーさんだってそう、一生懸命に新しい機構を考えて、技術を磨いて、いいものを作りたくって頑張ってくれている。 だからこそ、あなた方の伝えることは一番信ぴょう性があるし影響力を持っています。 本当の事は絶対に知っているはず、だから「本当のことを、そしてよりアコギにこうすればリスクが少ないんだよ」って伝えてほしい。

強気で湿度や温度だけのせいにしている海外のメーカーは、きっと日本の気候を体感していない人が書いている。
ギターケースで管理すれば大丈夫? そんなの建前です。 普通に使っていけばそんなに上手くいくはずがない。

せめて国産のメーカーだけでも、安全策として「弦は緩めましょう」って伝えてほしいです。
おこがましいでしょうが、メーカーに1年でも・3ヵ月だけでもいいから私の提案している管理方法を試してみてほしいのです。 そうすれは、「こいつが言っていることはあながち間違っていない」と解ってもらえるはずです。 毎日弦を緩めても「ネックやボディーの調子がまったく悪くなんか成らない」と言うことも。

色々と生意気言ってすみません。
自分はアコギが好きだから、どうしても伝えたいんです。
どうか宜しくお願い致します。



間違った情報に惑わされないで!

ネット上の情報はあいまいでいい加減です。 特にアコギの弦を緩めるか否かについては全くでたらめな事が流されている事を多く目にします。
YouTubeもそうです。
困ったことに数社のギターメーカーまで公式なHPで「弦は頻繁に緩めなくても大丈夫ですよー」と伝えてくれています。

何故だろう。 なんでそこまで言いきれるのだろう。
YouTubeの人はメーカーの言い分を根拠としているはずです。
更には、個体差があるので たまたま所有している個体には異常がないし、それならば大丈夫と自信を持って伝えている。
しかし、あなたの情報を見る人の全てが「一流メーカーが作ったしっかりと強度がある個体ばかりを使っているわけではない」のですよ。
大手のモデルも含めた入門用の低下価格モデル、あるいはブランド力が無いが価格的に魅力で買い易いメーカーの個体だったり。
それらは残念ながら有名ブランドの個体よりも強度や設計・品質は劣ります。
でも、どんなギターでも所有者からすればとても大切で大好きなギターなんです。

付け加えて申しますと、大手の有名モデル(高級モデル)でも私の経験では弦の力に負けて変形します。
耐えられる設計になっているとメーカーが謳っていても、自動車や家電などの対衝撃性とか個体の差が無い工業製品とは違うんです。
アコギは手工品で、一本ずつ手作りで、切ってきた原木によって、スライスした部位によって部材の強度はまちまちです。
そのまちまちな強度の部材で組み立てていれば、ネックやボディーの強度もまちまちです。
だから、強気で押しているメーカーもありますが全ての個体にリスクの可能性があります。
そのリスクが本当に”あったか”なかったのか”は実際に何年も使用していかなければわかりません。

そして、見かけるのが「弦を緩める締めるを繰り返すとネックやボディーに悪影響を与えます」と言うもの。 それよりも弦のテンションを掛けっぱなしの方がアコギにずっとストレスを与え続けていることになるはず。
私は信じられません、そうだとしたら、私のギターも私の教え子のギターも全部調子が悪く成っているはず。 しかし現実には1本もおかしくはなっていません。

そもそも、アコギの弦の張力は70kgと言われております。
つまりチューニングした状態ではアコギに70kgのストレスを与え続けている事になります。
想像してみてください。
ネックやボディーに70kgの力をずっと掛け続けていけば木製であるギターはその力に耐えようとバランスを保ちながら、時間を掛けて少しずつ変形していくのです。
だからこそ、使用しない時には弦を緩めてストレスから解放させてあげることが大事なのです。

確かに弦のテンション対トラスロッドのバランスをしっかり取っていけば安定したままの個体もあります。 でもね、テンションが掛かったままでも大丈夫な個体ばかりではないんです。
たいがいは一度だけでなく、その後何度かトラスロッドを増し締めしていくことになります。
それってジワジワとバランスが崩れて、弦に負けていってるってことですよ。
しかもトラスロッドではたわみ具合は調整できてもネジレや波打ちまでは調整できない機構になっています。

 

「何故、ネックのネジレや波打ちがおきるのか」

前述の最後に「ネックのネジレや波打ち」の話がでてきましたが・・・
ネジレや波打ちはどうしておきるのか。
みんなネックには曲げる力が掛かっていると思っているんですけど、厳密には「ヘッド側とボディー側の双方から押しつぶし合う」力が掛かっています。 その力の逃げる方向がネックを順反りに持っていこうとする。
その際に指板にひずみが出てきてネジレたり波打ったししてくるんです。
ゆっくりと時間を掛けてね。
指板ってスライスした平たい板に見えるし、掛かる力に対して均一に耐えてくれていると思うでしょう。
実際には、木でできているから節があったり部分ごとの強度は均一ではありません。
しかも、フレットを打ち込む溝が掘られていて、その溝に職人さんが手作業でフレットを打ち込んでいく。
フレットの間隔はハイポジションに成ほど狭く成ります。
張られている弦も1弦から次第に6弦側なるほどテンションは高い。
そう言う諸々が組み合わさって部分的にネジレたり波打ったりしてきます。

よくあるのが5・6番弦側が1・2番弦側よりも反ってしまった個体。
症状的にはヘッド側から指板越しに真っすぐかを確かめると、時計の反対回りに少しねじれてる。
これってね、5・6番弦側のテンションの方が強いから起こる現象です。
新品の時からそうなっている個体もあるけれど、数年使っているうちにそうなっていく個体もかなりあるはずです。
でも、ちゃんと緩めていれば そんなリスクは下げられる。

ネックってね、出来るだけ真っすぐの方が絶対に弾き易いんですよ。 真っすぐなら弦高もギリギリまで下げられるし、当然音色にも影響します。 ちなみに、ギリギリまで下げた方が音質的にも良くなります。
それが、指板がねじれたりたわんでしまうと、ギリギリまでは調整できなくなってしまいます。
※この辺の話は、いつかコラムでお教えしますね。

アマチュアは1本しか所有していないか、持っていても2~3本の方が大半のはずです。 その人達には経験則があまりない・・・
そしてアコギの僅かな変形のはじまりや音質の微妙な変化にさえ気付くことができないでいるんです。
よくありそうなのが、ギターをはじめてから5~6年経って 結構上達してきて、音楽仲間ができて、ギターに詳しい人ができて、そしたら「君のギター調整したほうがいいよ、弦高が高いから」
で、調整までしてくれて「かなり いい感じになったね、少しネックがねじれてるけど許容範囲だから大丈夫だよ」「よかったー、ありがとう」
ありそうな話ですよね。
この後の管理の仕方で、この人のギターの寿命は長くも短くもなるんです。
そこで気が付けばいいのですが・・・

私はギター教室を営んでから17年間、日頃から生徒さんのギターの状態をチェックさせて貰っていて、その間に起きた色々な事を、多くの個体を見てきた経験から自論に至っています。 だから、緩めないでいい派の人達よりも確固たる自信を持って伝えています。
よく考えてみてください、ご自分の大切な愛器のネックが知らずうちに曲がってしまっていたら・・・
「そんな大げさな」と思っている人は「少しぐらいなら曲がってもいいし」と考えている人です。
出来ればそんな方にも今日から考えを改めてほしいのですが、せめて「愛器を大事にしていきたいから正しい情報が知りたい」と思っている方は、今日からずっと弦を緩めて管理してあげてください。
そうすることで末永く愛器を演奏してあげられますし、今の状態がもしも悪くても、それはつまりある程度ネックが反ってしまっている個体でも しっかりと緩めて管理していけば数か月後には かなりいいところまで直る場合があります。

 

「力不足で無念なり」

私はこのコラムを書くにあたって、メーカーのHPや楽器店やアコギサイトやYouTubeのご意見を調べてみました。
正直がっかりしました。 「毎日弾くなら緩めない派」が多勢を占めている感じです。
そして私ほど「毎日緩めてね」って強気で言える人がほぼ居なかった。

私は、ギターの調整については、その辺の楽器屋さんよりも よっぽど詳しいんです。
これまで200本くらい調整してきました。
だから他の人には解らない事も知っているし、調整してきた経験から全てを理論的に説明できます。

その200本のほとんどは生徒さんの愛器ですが、ネックやボディーの変形があるためにそのギターなりにベストには調整してあげられても、理想の調整まで追い込めない個体は多くあります。
変形していなければ更に良いパフォーマンスを引き出せたのですが。
ご入会の際に既に所有している物や中古品の場合ほとんどはどこかに難が在り、以前に弦を緩めずに置いた影響が多分にあります。

そして職業柄、売ってしまえばその後の追跡調査を行なえないメーカーや楽器屋さんとは違い、その後も個々のアコギの管理に責任を持って指導してきた沢山の経験から、アコギサイトの方が言う「たぶん」とか「メーカーが言っているから」「恐らく正しいから」とか「私の個体は」とか、曖昧な説得性ではなく、実際に長年 多くの個体の状態を見てきた経験を積んでいるから、私は確信を持って強く「毎日緩めてね」と伝えられています。

私側の意見は多くはなく、多勢に無勢、いや劣勢に感じてきました。 残念ながら、この流れは私の書いたコラムひとつくらいで変えられる気がしません。
ですが、一人でもいいから私の言うことを信じ「当教室がご提案している管理方法」を試して頂ければ幸いです。
間違いなくその方の愛器は10年後・20年後まで「毎日弾く人は緩めないでいいよ派」の方のアコギよりも良い状態を保っていけますから。 本当にホントです。

 

「まとめます」

弦を緩めない事は=ずっとネックやボディーに弦のテンションを掛け続けてストレスを与えていること。
弦を緩めてあげる事は=弦のテンションを掛けないからギターにストレスを与えないこと。
なのです。
もう一度言わせてください。「よーく考えてみてください」どうぞ愛器を末永く大切にしてあげてください。
どうぞよろしくお願い致します。
※詳しくは「コラム1.弦を緩める大切さ」をご参照ください。

話が取り留めもなく長くなりました。 最後まで読んでくださった方、どうもありがとうございました。

ギター講師 : 須藤孝弘  2021.02.24